2019年03月07日

武侠小説 刀伊の入寇

武侠小説 刀伊の入寇

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冒頭部抜粋

 武侠小説 刀伊の入寇
                          大滝七夕

 一

 日本の年号では寛仁二年。宋国の年号では天禧二年(一〇一八年)の秋の夜のことである。
宋国の首都開封の郊外にある寂れた飯店に、白髪頭ながら厳めしい目つきが印象的な老人と、端正な顔立ちの若い夫婦が円卓を囲んでいた。
 表に看板さえも出ていない寂れた店である。三人の円卓には欠けた茶碗と一本の徳利があるばかり。店の主らしい人間はおらず、ほかに客らしい者もいない。店の扉は完全に閉じられているということは、本日の営業は終わったのだろうか……いや……そもそも営業しているのか……?
 景徳元年(一〇〇四年)に宋と契丹族の国家――遼との間で、?淵之盟を結び、北方の脅威がなくなったことで、宋国は大いに栄えていた。
 とりわけ、首都開封の繁栄ぶりは顕著であった。水運が整備されて国中の物資や人々が集まり、昼夜を問わず店には人々があふれ、屋台が立ち並び、大道芸、講談などが行われ、まるで、連日、お祭りが行われているかのような賑わい振りであった。
 開封の繁華街から離れた郊外とは言え、このような寂れた店があるのは奇異である。円卓には埃がかぶり、店の窓は欠けて、すきま風が吹き込んでいる。
 老人は、まるで乞食のようなボロをまとっているが、白髪はきれいに結い上げられており、口と顎の髭もきれいに切りそろえている。佇まいは到底乞食とは思えない。
 老人が欠けた茶碗でゆっくりと酒を飲み干すと円卓にコトリと置く。その風雅なしぐさからして乞食ではないと一目でわかる。
(なるほど……この方ならば、父上が頼りにするわけだ……)
 若い男――楊宗保は、目の前の老人を一目見ただけで只者ではないと感じ取っていた。
 円座に座って対面していた若い女がプッと笑った。
「どうしたのじゃ?」
 老人が若い女をじろりと睨む。楊宗保が女のひじを突いて、
「これ!失礼だろ!」
 と小声でたしなめる。
「構わぬ……申してみよ……」
「寇準様ったら、そのような、丁寧な飲み方では、到底、乞食には見えませんわ。姿だけ変えても、無駄ですわ」
「これ!」
 楊宗保が円卓の下で若い女の腕をつねろうとすると、若い女の方が楊宗保の腕をぴしゃりと叩いて、
「痛っ!」
 と、却って、楊宗保の方が悲鳴を上げる始末。
「ハハハ……そうか ……穆桂英殿。そなたの言うとおりじゃな」
 楊宗保は、座を立つと、
「妻が失礼を申して誠に申し訳ありません!」
 直立不動で深々と頭を下げる。堂々たる体躯でありながら、整った顔立ちに白い肌をしており、容姿だけ見れば、書生という風情。しかし、楊宗保は、武門の名家、楊家軍の当主の座にある軍人だ。
 楊家軍とは、楊宗保の祖父楊業に始まる軍閥である。
 遼との戦いで常に最前線に立ち、とりわけ、楊宗保の父である楊延昭は、数々の軍功を立てて、宋国の者であればその名声を知らぬ者はいない。
 景徳元年(一〇〇四年)に、?淵之盟が結ばれたことで、遼との戦いは終止符を打ち、大中祥符七年(一〇一四年)に父の楊延昭も亡くなって、楊家軍が活躍する場は無くなってしまったが、今でも、開封の街中では、講談師が楊家軍の栄光を語り継いでいるのである。
 容姿端麗の若い女――穆桂英が楊宗保の尻をボンと叩く。
「痛っ!」
 楊宗保は、またしてもうめき声を上げた。
 その様を見て、老人――寇準が、カラカラと笑う。
「巷で聞く講談によると、穆桂英殿は、楊宗保殿が穆柯寨に押し入った際に捕らえて、『私と結婚しないと殺すわよ!』と脅迫したそうじゃのう。おまけに父上の楊延昭殿まで打ち負かしてしまわれたとか。そんな女将軍がいるのかと半信半疑であったが、今夜、二人にお会いして、その話は誠じゃと悟ったぞ……」
「見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
 楊宗保は顔をしかめながらも、再度、頭を下げた。
「よいぞよいぞ。そう畏まっては、却って、我らの身がばれるではないか……」
 寇準が楊宗保の肩をぽんぽんと叩いて、座らせる。
(寇準様は――ずいぶんと丸くなられたようだ……)
 楊宗保は微笑を浮かべる寇準の横顔を見やりながら思った。
 もはや、六十になる老人である。顔には歳相応のしわがあり、体もやせ衰えているが、炯炯とした目だけは、かつての剛直な性格の名残を残していた。
(我ら、楊家軍の活躍によって、遼の宋への侵入を防いだのは事実だが、この方の後ろ盾がなかったら、今頃、この開封は、遼の蛮族に蹂躙されており、町のどこもかしこもが、この飯店のように寂れていただろう……)
 今、寇準はボロをまとって、楊宗保、穆桂英と差し向かいで、欠けた茶碗で酒を飲んでいるが、実は宋国の宰相の地位にある要人である。
 寇準が最初に宰相の職に就いたのは、景徳元年(一〇〇四年)のことであった。






武侠小説 刀伊の入寇


 日本に刀伊の入寇(一〇一九年)の危機が迫っていることを知った北宋の穆桂英は、楊家槍法を遣う若き女侠楊嫣を大宰府の藤原隆家のもとに派遣する。だが、刀伊――女真族の侵略の裏には、遼の後押しと陰謀があることが判明。秘密結社『土蜘蛛衆』に属する大蔵種拓は、隆家の命を受け、日本を守るべく楊嫣と手を組んで戦う。日本を舞台にした歴史ファンタジー小説。

刀伊の入寇(一〇一九年)の時代を背景に藤原隆家や楊家将演義にゆかりのある人物が活躍する武侠小説。
女真族が遼の後押しを受けて日本に攻め入らんとしている。既に遼は日本に蕭魔軻らの間者を潜伏させて来る時に備えていることを知った北宋の穆桂英は、大宰府の藤原隆家と日本の武芸者の秘密結社「土蜘蛛衆」棟梁葛城影行に危機を知らせるべく、養女の楊嫣(ヒロイン、語学堪能、楊家槍法を遣う若き女侠)を密使として日本に派遣する。
肥前国松浦で楊嫣と出会った大蔵種拓(主人公、土蜘蛛衆の次期棟梁として期待される若き武芸者。大宰大監大蔵種材の末子)は、二人で大宰府に行き、藤原隆家と面会するが、早くも、蕭魔軻ら遼の刺客に襲われる。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
posted by 大滝七夕 at 19:42| 今日の小説

行政法1−6 行政法総論 #行政書士試験 過去問 2011年問25

次の文章は最高裁判例の一節であるが、カッコにあてはまる語句を答えよ。




思うに、国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が( ア       )(国家公務員法一〇一条一項前段、自衛隊法六〇条一項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法九八条一項、自衛隊法五六条、五七条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し( イ     )(国家公務員法六二条、防衛庁職員給与法四条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つているものと解すべきである。

もとより、右の( ウ      )の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法七六条)、治安出動時(同法七八条以下)又は災害派遣時(同法八三条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し( ウ      )を負うものではないと解することはできない。

けだし、右のような( ウ      )は、ある法律関係に基づいて( エ         )に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し( ウ      )を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法九三条ないし九五条及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法二七条等の災害補償制度も国が公務員に対し( ウ      )を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。(最判昭和50年2月25日)







建太郎「むむっ……。判例の原文そのままじゃないか」

胡桃「そうよ。こういう問題も出題されるわ。だから判例をよく読んでおかなければならないのね」

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2019年03月06日

行政法1−5 行政法総論 #行政書士試験 過去問 2011年問24

次の記述のうち、誤っているものはどれか。




1、自然公物については、自然のままにおいて、公共の用に供されていると考えられるので、公用開始という概念は成り立ちえない。




2、公物の効用開始行為は、特定の私人を名宛人とするものではないが、行政法学でいう行政行為の一種である。




3、公物の効用廃止は、明示的な廃止処分によることなく、黙示で廃止されたものとみなされることもある。




4、私人所有の財産が、公物として公用開始の対象に含まれていた場合、公用開始の効力は、当該財産に関する部分について、当然に無効となる。




5、公用開始後の公物の供用行為が利用者との関係で適正であっても、第三者に対して損害を及ぼせば、当該公物の管理者は、損害賠償責任を負う。







胡桃「これはものすごく簡単な問題だわ」

建太郎「おう。公物の基本問題だな」

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