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2017年04月02日

JKリフレ殺人事件 特別中編 一億稼ぐ行政書士の事件簿2

JKリフレ殺人事件 特別中編 一億稼ぐ行政書士の事件簿2

PRノベル時代はライトノベル、時代小説を読めるオンライン小説サイト/ケータイ小説サイトです。息抜きに軽く読める小説がたくさんありますよ

(冒頭部抜粋)

 JKリフレ殺人事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿2 特別中編

                         大滝七夕

 1、JKビジネスと風俗営業法

 行政書士法第一条の二にはこうある。
 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
 簡単に言えば、クライアントが『事業を始める』際に必要な営業許認可申請や会社の設立のサポートをするのが仕事である。
 飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立を専門としている行政書士法人倉部事務所も『事業を始めたい』というクライアントをサポートするのが仕事で、『事業を止めさせてほしい』と言う依頼を受けることは普通はない。
 同事務所の所長である倉部友幸がそのクライアントと面談した時、暫し、絶句した。
 だが、話を聞いているうちに、「なるほど、厄介な問題だ」と認識し、その連中の営業を『止めさせるために』力を貸さなければならないと思った。
「いわゆる、JKビジネスですね?」
「そうです。ごく普通のマンションの一室で、ですよ。女子高生の格好をした女の子たちが男性客の接待をしているようなんですよ」
「マンション管理組合の理事長である白間さんが、その『やすらぎハイツ浦安』103号室を訪れても、部屋の中を見せてもらえないわけですね?」
「色々な人が出入りしているようなので、一体、何をやっているのですかと聞いても、『友達と遊んでいるだけだ』の一言ではぐらかされますし、『女の子たちがいっぱいいるようですが』と聞くと、『俺はモテるんだ。モテるのが悪いのか』と切り返される感じで、とんと話にならないんですよ」
「103号室は所有者が使っているわけではなく賃借人が使っている?」
「はい。所有者は猪島盛時と言う人ですが、この部屋に住んだことは一度もないようです。能口成太と言う若いお兄さんが借りて住んでいるんです」
「能口成太というお兄さんに話をしてもそのようにはぐらかされてしまうと?」
「そうです」
「所有者の方とは話はしていないのですか?」
「一度も会ったことがありませんし、どこに居るのかも分からないんですよ」
「なるほど。そういうことなら、まずは所有者の猪島盛時さんを探して、賃借人の能口成太があなたの部屋でJKビジネスをやっているようなので止めるように通告してくれと、言うべきですね」
「ええ。そうなんですけどね。私の勘では、二人はグルだと思うんですよ。猪島盛時は能口成太がJKビジネスをやっていることを知っているというか……、JKビジネスの本当の運営者は猪島盛時で、能口成太は雇われ店長なんじゃないかと思うんです。もしかしたら暴力団関係者とかじゃないかと疑っているんですよ」
「なるほど……。それでは猪島盛時と言う人物のことをよく調べる必要がありそうですね。一筋縄でいかない人物であれば、ただ、内容証明郵便で通告しただけではJKビジネスを止めないでしょうね」
 友幸は、法律用箋の上に万年筆を置くと、眉間に皺を寄せ、額に手を当てて考え込んだ。

 四月の終わり、ゴールデンウィーク前だった。
 昼下がりの事務所は気だるい感じはまるでなかった。
 友幸の他、二人いるパートナー行政書士――七三に分けた髪に白髪が混じる六十代の甘利虎信と、ややふっくらとした体つきで柔和な顔つきの三十代半ばの秋月浩二――は、先ほどから一時間ばかりも電話を耳に張り付けたまま、クライアントと何事かを話し続けていたし、十人ばかりの補助職員たちは、パソコンのキーボードを乱打し、紙吹雪の如く吐き出されるFAX用紙やコピー用紙の束と格闘している。
 入り口のドアがパチンと小気味よい音を立てて閉まり、今しがた、三人の補助職員が役所に書類を提出するために出かけたのだと分かった。
 誰もがきびきびと働いている中、自分の手だけが止まっていることに気付き、友幸はハッとして顔を上げた。
 面談用のテーブルの傍らにスリープ状態のノートパソコンが置かれている。液晶画面が反射して自らの顔が浮かび上がっていた。
 ショートカットの髪型に鷲を思わせる目つきをした精悍な顔立ちは自分で見ても悪くないと思う。手入れの行き届いた質の良い黒スーツを身に付け、左衿には、秋桜の十枚の花弁の中央部に篆書体の行の文字が配置された行政書士のバッチが金色の輝きを放っている。
 三十代になったばかりで行政書士としては若すぎるが、如何にもやり手と言う外観を呈していると思う。
 だが、行政書士は見た目で勝負する職業ではない。クライアントに的確な助言ができて初めて、信頼を勝ち取ることができる。
 目の前にいる白間由香という五十代の女性は、買い物のついでに立ち寄った主婦と言った雰囲気。『やすらぎハイツ浦安』101号室に一人で住んでいて、会社で一般事務の仕事をしているごく普通の人である。
 こうしたごく普通の人が行政書士のクライアントになる機会は人生の中でもそう多くはない。
 せいぜい、車を買った際の車庫証明の手続きを行政書士に依頼したり、相続の際に各種の相続手続きや遺言書作成に関して行政書士に助言を求めたり、手続きの代行を依頼することがあるかもしれないという程度だ。
 ましてや、飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立という事業者向けの法務サービスを主として提供している行政書士法人倉部事務所は、こうしたごく普通の人をクライアントとして迎えることは、まず、ないと言っても過言ではない。

 今回の件に関して、報酬はほとんど期待できない。
 風俗営業を始めるために必要な膨大な申請書類を作成して、クライアントにそれ相応の報酬を求められるわけでもないし、事業開始後も法務顧問として継続的に関係を持ち、定期的な報酬が見込める案件でもない。
 たった今、相談を終えてしまえば、白間由香は、二度と行政書士法人倉部事務所の敷居を跨ぐことはないだろう。
 だからと言って、相談をなおざりにするわけにはいかない。いや、刹那的なクライアントだからこそ、その一瞬に得た印象は大きなものになる。行政書士法人倉部事務所の評判はもちろんのことだが、行政書士と言う職業に対する印象ともなる。
 白間由香は、『やすらぎハイツ浦安』という三階建ての小さなマンションのマンション管理組合の理事長をしているという。当然、マンションの住民とはよく話をしているだろうし、今回の案件に関して、行政書士法人倉部事務所に相談してみる旨を住民たちに告げて来たであろう。
 彼女が、今ここで得た印象は、その住民たちに拡散されるわけで、よくない印象を持ってしまえば、行政書士法人倉部事務所、しいては、行政書士と言う職業自体の悪い評判となって住民全体に伝染病の如く広がってしまう。『やすらぎハイツ浦安』という小さなコミュニティばかりでなく、やがては、周辺の地域にも広がってゆくのだ。
 行政書士として相談を受けるということは、自分の事務所ばかりでなく、行政書士と言う職業の評判も背負っているということを自覚しなければならない。

「そのJKビジネスの店の名前は何と言うんですか?」
 友幸が気を取り直して、訊ねると白間由香は手に持ったメモ用紙を見せてきた。
「ええっとですね。ホームページで見たんですよ。JKリフレ『ドキドキ女子寮』ですね」
 メモ用紙には店の名前の他、ドメインも記されていた。
「ちょっとパソコンで確認してよいですか?」
「ええ。どうぞ」








JKリフレ殺人事件 特別中編  一億稼ぐ行政書士の事件簿2 (行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版))




 司法はここまで凋落したのか! 法科大学院教授がJKリフレを運営?行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版)第三弾

 行政書士の倉部友幸は三十歳になったばかりでありながら、都心に近い駅前の一等地に事務所を構え、二人のパートナー行政書士と十人の補助職員を使う行政書士法人倉部事務所の所長である。飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立という事業者向けの法務サービスを主として提供している。
 友幸のもとに、とあるマンション管理組合の理事長白間由香が相談に訪れる。住居に限定したごく普通のマンションの一室で、『JKリフレ――女子高生がリフレクソロジーという簡易マッサージをしてくれるサービス』を営業している者がおり、彼らを追い出すために手を貸してほしいという。JKリフレは風俗営業法や飲食店営業の規制を受けないため、住居専用のマンションでも営業できてしまうのだ。
 友幸は、彼らの部屋の前に防犯カメラを設置し、その映像記録をもとに警察に相談し、あるいは、裁判所へ明け渡しを求める訴えを提起すべしと提案する。
 友幸の立ち合いの下、早速、防犯カメラを稼働させると、その部屋で賃借人――JKリフレの店長能口成太(31歳)が殺害されるという事件が起きてしまう。防犯カメラの映像記録から、17歳の現役女子高校生城内優美が被疑者として浮上するが……。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


「大滝七夕って何者?」と興味を持ってくださった方は、先ず、こちらのシリーズをご覧ください。



バイト補助者からの成り上がり 実録行政書士開業十年

 平成十五年の行政書士試験合格後、大学卒業と共に行政書士補助者となるも二か月で失業。
 人生で最もどん底の時期を生き抜き、人脈、資金、営業経験ゼロの状態から弁護士と行政書士の合同事務所を設立し、現在、十周年を過ぎた私の開業初期の実体験を記した手記。

 私の趣味と特技は小説の執筆です。学生時代は、非モテの引き籠り体質で友達が全くいませんでした。
 はっきり言って士業には全く向いていない人間です。
 おまけに、開業した時は失業状態で、資金はゼロ。行政書士会に払う登録手数料や入会金を支払うお金もありませんでした。
 何の計画もなく、見切り発車したにもかかわらず、行政書士として十年以上生き抜き、一千万以上の売上を上げている理由は、私だけの独自の営業手法『チラシ小説』にあります。
 その秘密をほんのちょっと公開しています。
 行政書士の方だけでなく、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士等の他士業でも使える方法です。興味がある方は参考にしてください。

※この小説は行政書士等士業の開業テクニックを披露する事に主眼をおいたものではありません。私のプロフィールを少し詳細に紹介している私小説に過ぎないことをご承知おきください。


現在大滝七夕名義で公開している小説一覧(今後も続々増えます!お楽しみに♪)

楽々合格国家資格試験シリーズ
ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係1
ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係2
ライトノベル小説で学ぶ宅建士試験基本テキスト 権利関係3

行政書士の事件簿シリーズ
年収一千万の行政書士補助者
地下アイドル殺害事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿1
JKリフレ殺人事件 特別中編 一億稼ぐ行政書士の事件簿2
民泊ビジネスの闇 一億稼ぐ行政書士の事件簿3

弁護士の事件簿シリーズ
遺産はアンティークコインにぶち込め? 即独新米弁護士の事件簿1
障害年金の不正受給 即独新米弁護士の事件簿2
第二のパナマ文書 十億稼ぐヤメ検闇弁護士の事件簿1
藁の上からの養子 即独新米弁護士の事件簿3
女子大生レイプ事件 即独新米弁護士の事件簿4

女子大消費生活センターの事件簿シリーズ
ドロップシッピングの甘い罠 女子大消費生活センターの事件簿1
コンビニに二十万円をだまし取られた件について 女子大消費生活センターの事件簿2

大滝七夕私小説
バイト補助者からの成り上がり 実録行政書士開業十年
食える行政書士になりたければネットも営業もやめよう 実録行政書士開業十年2
食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方1 実録行政書士開業十年3
食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方2 実録行政書士開業十年4
食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方3 実録行政書士開業十年5

和風ファンタジー小説
火車組顛末記
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僕はさすらいの十手持ち
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中華ファンタジー小説
偽宦官になって紫禁城でハーレム生活
武侠小説 襄陽城の蘭陵王
武侠小説 紅面剣侠
武侠小説 刀伊の入寇
武侠小説 東京開封府天狗伝説
武侠小説 チンギス・ハーンの秘伝書
武侠小説 劈風魔神剣伝説

リーガルファンタジー小説
遺言執行士のお仕事
エンジェルハート法律事務所
被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿

posted by 大滝七夕 at 21:50| 今日の小説

2017年03月31日

地下アイドル殺害事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿1

地下アイドル殺害事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿1

PRノベル時代はライトノベル、時代小説を読めるオンライン小説サイト/ケータイ小説サイトです。息抜きに軽く読める小説がたくさんありますよ

(冒頭部抜粋)

 地下アイドル殺害事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿

                   大滝七夕

 序

 高田佑介の顔が恐怖と驚きで引きつった。
 背丈は百六十にも満たず、男としてはだいぶ低い。横幅はごつい。本人はジムに通って鍛えていると豪語しているが、ずんぐりとした体つきをしているのは筋肉が付いているからではなく、脂肪が余分についているからだ。
 侵入者の俊敏な動きに対して、佑介は何らの有効な手立てを講じることができずに、後退りするだけだった。
 侵入者は黒いブルゾンと黒い防寒ズボンを身に付けていた。手には黒い手袋。頭にも黒い毛糸の編み帽子を被っていた。左手に握るのは日本刀の鞘。右手には、抜身の日本刀が握られていた。模造刀ではない。真剣の日本刀である。脇差と呼ばれる長さの日本刀で、片手で振り回すにはちょうどよい長さだ。
 そして、日本刀の刃の切っ先が佑介の喉元に突き付けられていた。
 侵入者の顔は隠されていない。佑介はその侵入者が何者であるかよく知っていた。
 まさか、この人が、これほど素早い動きで、脇差を抜き、己に肉薄してくるとは思いもしなかった。侵入者がわずかに右手に力を込めれば、己の首が掻き切られてしまう。瞬時に出血死してしまうことは明らかだった。
「ならば……遺書を書くのだ」
 侵入者が低い声でつぶやいた。感情のない無機質な声だった。おまけに見たことの無い冷徹な眼差し。まるで、日本刀を手にしたことで日本刀に宿る妖魔に憑かれて人が変わってしまったかのようだった。侵入者は言葉を続けた。
「今から自殺しようというのだからな」
 膝までずり落ちていたズボンを這う這うの体で引っ張り上げた佑介は、身をぶるぶると震わせながら、後退した。
 一歩下がったところで、何かに足を取られた。あっ!と目を見開いた時は、無様に尻餅をついて倒れていた。
 受け身を取ることができずに、床に派手に尻をぶっていた。
 痛いと感じる余裕はなかった。痛いと言えば頬もそうだ。先ほど、両頬を拳で何度も殴られた。何本かの歯がぐらついていたし、唇が切れていて今なお出血していた。鼻血もまだ、止まっていない。
 だがその痛みも鈍く光る日本刀を前にした今では霞んでしまった。少しでも目を離せばその隙に、日本刀の刃が己の首を掻き切ってしまうような気がした。
 恐怖を振り払うように首を横にぶるぶると振った。息を喘がせながら、足元に目を向ければ、木製の椅子が絡まっていた。先ほど、侵入者が闇の中から現れた時、慌てて立ち上がった。その際、座っていた椅子を倒してしまったのだ。
 佑介は何か楯になる物がないかと両手を床に彷徨わせた。まるで、溺れかけた人間が藁をも掴もうとして必死にもがくかのような動作だった。
 佑介は左手で太い棒のような物を掴んだ。それを侵入者の顔面に投げつけようとした。だが、ズズッと重い物を引きずるような音が立っただけだった。左手で掴んでいたのは、テーブルの脚だった。先ほどまで使っていたテーブルだ。テーブルの上には起動したノートパソコンが置かれている。この部屋の中で最も高額な貴重品にして、己の命綱と言っても過言ではない。ノートパソコンを壊すわけにはいかないと思って、佑介はテーブルの脚から手を離した。
「さあ……遺書を書くのだ」
 侵入者が佑介の脚に絡まった椅子を蹴った。椅子は反対側のテーブルセットにぶち当たって派手な音を立てた。
 佑介は、再び、恐怖の眼差しを日本刀の刃に向けた。
「ノ、ノートパソコンを使わないと……」
 佑介はそう声を絞り出すのがやっとだった。
 この時、佑介の周囲には、侵入者に投げつけられるものがたくさんあった。メイドカフェを開店するために中古家具屋からタダ同然でもらってきた七つのテーブルセット。それぞれの椅子には四つの椅子が並べられており、その椅子の一つ一つを投げつけてやれば、侵入者を挫くことは容易かったはずだし、キッチンに駆け込めば、包丁もフライパンも鍋もある。それらを投げつけるなり、振り回すなりして、侵入者を撃退することができたはずだった。
 だが、佑介はそんなことは思いもしなかった。
 侵入者の鬼気迫る眼差しと日本刀から立ち込める剣気にすくみ上ってしまい、尻餅をついたまま、もがく様にして後退りするのがやっとだった。
 カウンターの板に背中がぶつかった。お客様を出迎えるために設けたカウンターだ。やはり、中古家具でタダ同然で買った安物だ。シミがあちこちについていて、泥に埋もれていたかのように汚れている。これから丁寧に磨いて、塗装し直そうと思っていたものだ。
 ぶつかった弾みにカウンターの下に立ててあったホワイトボードが倒れた。アイドルの女の子たちの出勤表として利用する予定のものだった。
 ホワイトボートマーカーがコロコロと転がった。佑介は反射的にそれを掴んでいた。
「遺書はあなたの自筆で書かなければならない。ペンはそれでよい。紙はないのか?」
「な、無い……。私は……、書き物はノートパソコンで済ませる。紙は使わない」
「ならば、止むを得まい。そのホワイトボートに書け……」
 侵入者が裏返ったホワイトボートを蹴った。ホワイトボートが乾いた音を立てて床の上で表面を向いた。
「ここにですか……?」
「そうだ」
「私が遺書を書くとしたらノートパソコンに残す。こんな所に書かない……」
「ノートパソコンでは、誰が書いたのか判然としない。あなた以外の者でも、書き残せる。そう……あなたが、あの子のブログを偽造していたように……。あの子の文章だと偽って、ファンの目を欺いていたように……」
「すまなかった……。本当に心から後悔している……」
 佑介はとっさに土下座して許しを請おうとした。だが、体を動かすより先に、侵入者が佑介の前に片膝をついて、日本刀の刃を喉元に突き付けてきた。目に止まらぬ動きだった。座位からの居合抜きに似た技を繰り出したのだと、佑介にも理解できた。
「ど、どうか……」
「本当にすまなかったと思っているならば、その気持ちを今すぐに書くことだ」
「わ、分かった……」
 日本刀の刃はなおも佑介の喉元から離れなかった。左側の首筋に当てられたままだった。
 突如として、侵入者は、刃を反転させて峰を左側の首筋に食い込ませてきた。日本刀の峰で打たれたように佑介は横に転がり、ホワイトボードに前屈みになった。
 顔をホワイトボードに突っ伏していた。鼻血と切れた唇から流れた血がべったりとホワイトボードにこびり付いた。まるでキスマークのような跡だった。
 佑介はホワイトボードに両手を突いて、身を起こした。両掌にもわずかに血が付いている。鼻血と唇の血をぬぐったからだ。
「さあ……書くのだ。『私は今から自らの手で命を絶つ。』とな」
「ど、どうか……勘弁してください」
 佑介は顔を上げようとしたが、体を動かすことができなかった。首の後ろに日本刀の刃を当てられていたからだ。刃なのか峰なのかは分からなかった。氷を押し付けられたような冷たい感覚があるだけだ。
 佑介の鼻先から血が滴り、ホワイトボードに一粒落ちた。
「まずは書け……。内容次第では、あなたの助命嘆願を聞き入れぬこともない」
「わ、分かりました……」
 佑介はそう答えたものの恐怖のあまり、頭が回らなかった。鼻先から血が滴り続けるばかりで、ホワイトボードにはいくつもの血の水玉ができていた。
 何でもいいから書こうとは思うものの、脳みそが凝固したように言葉が出てこなかった。ただ、ホワイトボートマーカーをぶるぶると震わせるばかりだった。
 間もなく、侵入者の落胆したようなため息が聞こえてきた。
「どうやら、あのような破廉恥なことをしても、何とも思っていないようだな……?」
 日本刀の刃が首の後ろをサッと薙いだような気がした。一瞬、首を切られたかと思ったが、まだ意識を保っていた。
「そ、そんなことはありません。ど、どうか……じ、時間をください……」
「ならば、私の言う通りに書け」
「は、はい……」
「私は、今から自らの手で命を絶つ……」
 佑介はまごつかせながらも、ホワイトボートマーカーを動かした。手がぶるぶると震えて、きれいな字を書くことはできなかった。これでは己の字だと妻でさえも判読できないだろうと思った。何とか、一文を書いたところで、侵入者が言葉を続けた。
「私は、自分一人では何も生み出すことができず、他人にたかることしかできなかった」
 先ほどよりは、すらすらと書けるようになっていた。
「妻を利用したばかりか、娘までも利用しようとした。結果、妻と娘を傷つけ、ファンを裏切り、多くの方に迷惑をかけてしまった」
 妻の美しい横顔と娘の円らな眼差しが脳裏をかすめた。佑介は死にたくないと本気で思った。彼女たちとやり直したいと思った。
「どうか……」
「まだ続きがある。まずは書け。『このような事態になったのは自業自得。すべての責任は私にある』」
 佑介は言われたとおりに、すべての文言を書き終えた。
 その瞬間、首の後ろから日本刀の刃が離れた。恐る恐る顔を上げると、侵入者は、日本刀をだらりと下げたまま、立っていた。
 己を殺す気はなくなったのだろうか?もしかしたら、許してくれるのだろうか?と思った。
「他の画像と動画のデータはどこにある」
「す、すべて、ノ、ノートパソコンにある。まだ、ネットに流出させていない。だ、だから、まだ間に合う。データはすべて消す。どうか、私たちがやり直すチャンスを与えてくれ」
 侵入者は、答えなかった。ただ目を閉じて、自然体で立ち尽くすばかりだった。
「私たちだと?あの二人はとっくにお前とは縁を切ったのだ」
「そ、そうだ、その通りだ。わ、私は、あの二人とは二度と会わない。だからどうか……」
「やり直すチャンスをくれと言った直後に二度と会わないと言う……。あなたの言葉など、信用できんことは、これまでの数々の行いからして明白!」
「どうか……命だけは……」
 その刹那――。
 佑介は、自らの左胸に、冷たい刃が押し込まれるのを感じた。刃は深々と入り込み肺にまで達したのが分かった。すぐに、刃はゆっくりと引き抜かれた。
 たちまち、熱い血潮が胸から流出するのも感じ取ることができた。急速に息苦しくなり、喉に血が逆流してきた。佑介が意識を保っていられたのはそこまでだった。

 一、嘘で塗り固めたアイドル

 法律用箋にメモを取るふりをしながら話を聞いた行政書士の倉部友幸は唖然としてしまった。
 こんな裏切り行為が許されるのだろうか?
 よくもこの男――高田佑介はファンに刺されずに、生きていられるものだと思った。
「今、話したことは、誰にも知らせないでくださいよ。メモも残さないでくださいよ」
 佑介が身を乗り出して、友幸の手元にある法律用箋を無遠慮に覗き込んできた。前島美紀のことが一言でも書かれていれば、法律用箋を引き裂かんばかりの勢いである。
「もちろん、あなたと私が交わした会話は、厳格な守秘義務によって守られますから、ご安心ください。今、お話し下さったことに関しては、私の胸にだけ収め、決して口外することはありません。もちろん、メモも残しません」
「頼みますよ。倉部先生。何もかもが番狂わせになってしまったんですよ。すべては、妻があの男の下に走ったのが悪いんです。妻が俺の所に留まっていれば、何もかもがうまく行っていたはずなんです」
 それから、佑介は口から泡を飛ばしながら、妻が如何に背徳的な人間であるかを口汚く並べ立てた。聞くに堪えない言葉がいくつも飛び出してきた。
 その言葉を聞きながら、友幸は呆れてしまった。
 全く……。この男は、人のせいにすることばかりで、己には非がないとでも言いたいのだろうか?
 万年筆を法律用箋の上に放り投げた友幸は腕を組んで、口を堅く結んだまま、佑介の話を聞いた。形だけ、相槌を打っているものの、佑介の言葉に賛同できる要素は全くなかった。







地下アイドル殺害事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿1 (行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版))




 風営法専門の行政書士が見た! 地下アイドル業界の闇!行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版)第二弾

 行政書士の倉部友幸は、市議の蓮沼太郎、弁護士の村上茜ら優良な取引先に恵まれ、三十歳になったばかりでありながら、二人のパートナー行政書士と、十人の補助者と秘書を使う『行政書士法人倉部事務所』の所長である。浦安駅の近くの一等地にある新築のビルに事務所を構え、飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立を専門としている。
 友幸は、弱小芸能事務所の社長高田佑介からメイド喫茶の開店に必要な手続きの代行を依頼される。迅速に処理するものの高田佑介が報酬を踏み倒す。
 所属していた売れっ子の地下アイドル前島美紀が事務所を出奔したため、収入が途絶えたというのだ。世間には公表していないが高田佑介と前島美紀は婚姻関係にあり、娘までいる。前島美紀は高田佑介に愛想をつかし、以前から交際していた蓮沼太郎の下に逃げたのだという。
 そんな最中、高田佑介がメイド喫茶の開店予定地で殺される。友幸らにも捜査の手が伸びるが……。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


「大滝七夕って何者?」と興味を持ってくださった方は、先ず、こちらのシリーズをご覧ください。



バイト補助者からの成り上がり 実録行政書士開業十年

 平成十五年の行政書士試験合格後、大学卒業と共に行政書士補助者となるも二か月で失業。
 人生で最もどん底の時期を生き抜き、人脈、資金、営業経験ゼロの状態から弁護士と行政書士の合同事務所を設立し、現在、十周年を過ぎた私の開業初期の実体験を記した手記。

 私の趣味と特技は小説の執筆です。学生時代は、非モテの引き籠り体質で友達が全くいませんでした。
 はっきり言って士業には全く向いていない人間です。
 おまけに、開業した時は失業状態で、資金はゼロ。行政書士会に払う登録手数料や入会金を支払うお金もありませんでした。
 何の計画もなく、見切り発車したにもかかわらず、行政書士として十年以上生き抜き、一千万以上の売上を上げている理由は、私だけの独自の営業手法『チラシ小説』にあります。
 その秘密をほんのちょっと公開しています。
 行政書士の方だけでなく、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士等の他士業でも使える方法です。興味がある方は参考にしてください。

※この小説は行政書士等士業の開業テクニックを披露する事に主眼をおいたものではありません。私のプロフィールを少し詳細に紹介している私小説に過ぎないことをご承知おきください。


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posted by 大滝七夕 at 20:52| 今日の小説

2017年03月30日

被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿

被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿

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(冒頭部抜粋)

 被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿

                         大滝七夕

 序 天才甲冑師トルキン暗殺事件

 パンデクテン万国共通憲法の第十四条にはこうある。
 『知性を有するすべての種族は、法の下に平等であって、種族、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。』
 続けて二項には、『パンデクテン万国共通言語による意思疎通が可能な種族はこれを知性を有する種族とする。』
 つまり、人間のみならず、魔族も、もちろん、人間と魔族の混血児も、パンデクテン万国共通言語によって意思疎通ができれば、誰もが平等な立場に立てる世の中になったということなのだ。
 勇者ラインハートが魔王ザガリーを倒し、ザガリー大戦と呼ばれる人族連合国と魔族連合国の世界大戦が終結したことに伴い、この憲法が全世界で公布され、施行されたのだ。

 トルキンは、庭先の石のテーブルの前に肘掛け椅子を出して春の夜の穏やかなひと時を堪能していた。
「ラインハートに協力した甲斐があったということかな……」
 新聞をクリスタル製のランプが灯る石のテーブルの上に置き、カヌチ酒の一升瓶をそのまま口に運んで一気に飲み干したトルキンは、そう独りごちた。
 カヌチ酒はアルコール度が高く、人間にとっては、強い酒であるが、人間と魔族の混血児であるトルキンにしてみれば甘酒と同然だった。
 ふと夜空を見上げれば、空には満月が浮かび、いくつもの星座がはっきりとした輝きを放っている。
 自分のこれまでの人生は差別と偏見に悩まされ続けた日々だったなとトルキンは思い返した。
 甲冑師を志して、人間の国の大学で最も偏差値の高いレイシオ国立デシデンダイ大学の工学部に入学できたものの、学生生活は楽しいものではなかった。
 同期生は全員が純然たる人間で、人間と魔族の混血児は己一人だけだった。それだけに、誰からも奇異の目で見られた。誰かに話しかけても無視されるし、攻撃するつもりかと警戒されて、盾で押し返され、剣を突き付けられたこともあった。教官でさえ、なぜおまえがここにいるのだと睨みつけてくるほどだった。
 そんなわけで、トルキンはいつも孤独だった。昼食はトイレ飯だったし、講義を受ける時も教室の隅の机に一人ぼっちで座っていた。教室がどれほど込み合っていても、トルキンの周囲だけはドーナツ状の空間ができていた。他の生徒と深く関わるサークルやゼミにはもちろん入らなかった。
 唯一、気にかけてくれたのは、クリスタル製の防具制作を専門とするエイリアス教授だった。
 人間の生徒たちが堅いクリスタルの加工に手を焼いている中、トルキンだけは魔族由来の魔力を駆使してものの数分で課題を達成して見せると、エイリアス教授が己のことを絶賛してくれたのだ。それがきっかけで、トルキンはエイリアス教授に個人的に師事し、クリスタル製の防具制作を専門とする甲冑師を志すようになった。
 だが、卒業してから就職する先がなかった。大手の防具工場はすべからく人間の職人のみを求めており、人間と魔族の混血児であるトルキンは、学部での成績がトップクラスでも、門前払いとなってしまったのだ。
「お前の才能は必ず役に立つ。腐ってはならんぞ」
 エイリアス教授は、そう励ましてくれて、大学に残って研究者の道に進まないかと勧めてくれたが、トルキンは断った。トイレ飯には、もううんざりしていたからだ。
「ならば、クリスタル山脈の只中にあるカヌチ村に行くとよい。クリスタル山脈は、クリスタル製の防具の原料を産出する山だし、カヌチ村には、その手の職人が二、三人ほどいて、個人工房を構えている。お前もそこで個人工房を構えるとよい」
 エイリアス教授の勧めに従い、トルキンはカヌチ村に移住して、個人工房を構えた。カヌチ村は、もちろん人間の村であるが、穏やかな性格の人が多く、トルキンのこともすぐに受け入れてくれた。

 勇者ラインハートがエイリアス教授の紹介状を携えて、カヌチ村を訪ねてきたのは、トルキンがカヌチ村に移住してから五年後のことだった。
 勇者ラインハートは、魔王ザガリーとの戦いに備えて、強力な防具を必要としていた。
 『ホーリークリスタルアーマー』と言う鎧である。
 もちろん、並の甲冑師では制作は不可能。エイリアス教授にも無理で、唯一、制作できるとすればトルキンのみ。ぜひとも勇者ラインハートに協力してほしいとのことだった。
 紹介状と共に、エイリアス教授自筆の設計図も同封されていた。それによるとホーリークリスタルアーマーを制作するためには、少なくとも百匹のクリスタルクラゲが必要だということ。クリスタルクラゲは、クリスタル山脈の奥地ブリザード峡谷にしか生存していないということだった。
 そして、クリスタルクラゲは、絶滅危惧種に指定されており、デシデンダイ国際取引条約により捕獲も取引も禁止されているが、魔王ザガリーを倒すためにはホーリークリスタルアーマーが必要不可欠と言うことだから、ぜひとも、協力してやってほしいと結ばれていた。
 エイリアス教授直々の指名ともなれば、トルキンは断ろうはずがなかった。
 それから三か月後には、勇者ラインハートは、ホーリークリスタルアーマーを装備して、意気揚々とカヌチ村を去った。
 魔王ザガリーが勇者ラインハートの手によって葬られたのはそれからわずか半年後のことだった。

 勇者ラインハートが魔王ザガリーを倒したことで、この世界――パンデクテンは大きく変わった。
 人族連合国と魔族連合国の間で、デシデンダイ講和条約が結ばれ、戦争状態が終結した。
 レイシオ国立デシデンダイ大学法学部教授で憲法学者のチャールズ・グリシャムが中心となって、パンデクテン万国共通憲法が起草され、公布、施行された。人間も魔族も混血児も――誰もが法の下に平等となったのだ。
 新聞――デシデンダイタイムズでは、憲法施行から七年経った今でも、憲法特集として、毎日一条ずつ、その条文の意味と判例を一般の人にも分かるように解説していた。
 すべての種族に法の下に平等だという概念を植え付けるには、たった一度のニュースを流しただけでは不十分だったからだ。
「すべての種族は、法の下に平等か――」
 この憲法制定後七年経った今から、己が大学に通うとしたら、あの頃の様な不当な差別を受けることはないのだろうか?トイレ飯を食うような生活ではなく、人々の間に交じって、和気藹々とした生活を送れるのだろうか?
「でも……人の意識は法律が制定されたくらいで変わるわけがないよな……」
 トルキンはデシデンダイタイムズを折りたたむと、テーブルの上に置かれた一枚の封筒に目を向けた。
 エイリアス教授からの手紙だった。エイリアス教授は近々、定年退官することになっており、後任の教授としてトルキンを招きたい旨が記されていたのだ。
 どう返事すべきか、トルキンは迷っていた。
 何しろ、トルキンは、カヌチ村での生活が気に入っていた。クリスタル製アーマーを年に一つ作れば、それだけで一年間暮らすことができるほどの大金が入り込む。トルキンの手に掛かれば、平凡なクリスタル製アーマーを一つ制作するのに七日も要しない。鎧を一つ作れば一年の大半は、安寧に暮らすことができるのだ。
 ザガリー大戦が終結したことにより、クリスタル製アーマーの戦闘における需要はほとんどなくなるはずである。
 だが、一部の金持ちたちは、自分たちは装備できずとも部屋のインテリアとしてクリスタル製アーマーを欲しているから、彼らを相手にして商売をすれば、これからの時代でも収入は見込めた。
 今の生活を捨ててまで、教授の仕事を引き受ける必要もないのだ。
「さて……どうしたものか……」
 そうつぶやいて、肘掛椅子に深く座り直した時である。暗い森の中で何者かが動いたように思った。
 トルキンの住居兼工房はカヌチ村の中心部から離れた小高い丘の上にあった。周辺には住居はなく、村の中心部を見下ろすことのできる原っぱと後背に鬱蒼とした森が迫っている。森にはウサギやリスといった小動物はいるが、大型の動物はいない。
 村人の誰かがトルキンの家に来るときも、見通しの良い原っぱを登ってくるのが常で、森の中から姿を現すことはない。
 トルキンは石のテーブルの上に置いたクリスタル製のランプを手にすると森の茂みの方に明かりを向けた。
「誰かいるのか?」
 と誰何したが答えはなかった。
 その時、突然、黒い気を含む風がトルキンの頬を撫でた。
 何者かが後ろに回ったと感じて、背後を振り返ったが、何者の姿も見出すことができなかった。
「一体、なんだ……」
 トルキンが首を傾げた時、不意に背後から声がかかった。
「お前がホーリークリスタルアーマーの件に関わったトルキンか……?」
「何者だ……!」
「トルキンで間違いないようだな……?」
 姿は見えなかった。だが間違いなく、何者か――黒っぽい着物をまとった者が己の周囲を目に止まらぬ速さで動いているのだと理解できた。
「何の用だ……!」
「お命頂戴いたす……」
「な、何だと……!」
 その瞬間、トルキンの目前で緑色の霧が沸き立った。霧は瞬時にして、トルキンの体に吸い込まれた。
 その刹那――。
 意識を失ったトルキンは仰向けに倒れて、二度と起き上がらなくなった。

 1、十六歳の新米弁護士ビアンカ・グリシャム

 小悪魔ちゃん喫茶『デビルガール』の女子用お手洗いには全身を映し出せる鏡があった。
 ビアンカ・グリシャムは、その鏡の前に立って、己の姿をあらゆる角度から確認していた。
 身長は百五十五。黒く艶のある長い髪はツインテールに束ねている。やや大きめのネコ目が印象的な整った顔だち。目の奥からは強い光を放っているようで意志の強さを感じさせる。白いシャツに濃紺のスーツとミニスカート。足からはすらりとした生足が覗いており、濃紺のハイソックスと黒皮のローファーを履いていた。
 スーツの左衿には天秤を象った純金のバッチが輝いていた。
 パンデクテンのあらゆる国で活動できる『万国共通弁護士資格』を有することを示すバッチだった。
 ビアンカは胸に手をあてがい、その膨らみの貧弱さに思わず顔をしかめた。せいぜい、手ですっぽり覆えるほどの膨らみしかないのだ。
「まあ、気にしたってしょうがないか……。それより、私、弁護士に見えるかしら……。うーん。ツインテールだと子供っぽく見えるかな……。髪型は変えた方がいいかしら……」
 何しろ、ビアンカはまだ十六歳で、数か月前に司法試験に合格したばかりの新米弁護士なのだ。
 平均的な弁護士と比べて若すぎ……、いや、幼すぎるというべきだろう。
 弁護士になるには大学を卒業した後、ロースクールに進学し、三年間の勉強の後、司法試験に合格しなければならない。大学に入るにしたって、人間の学生ならば、一般的には、十八歳前後だし、それから四年間の大学生活の後、ロースクールに進学することになるのだから、早くても、弁護士になれるのは二十代の半ばである。
 だが、才能のある学生は、飛び級制度と大学入学資格検定試験を利用することで、十代で大学もロースクールも卒業することができたし、司法試験を受けて弁護士になることもできた。
 ビアンカもそうした制度をフルに活用することで、十六歳にして弁護士になったのである。
 これは、特段珍しいことではない。
 パンデクテン万国共通憲法が施行されて以来、毎年、数人は最短で弁護士になっているし、ずば抜けて高い知性を有する種族だと、六歳で弁護士になっている例もあった。人間の最年少記録は、憲法施行の年にクリスト・ハーバートという少年によって打ち立てられた。彼は十一歳で弁護士になっており、この記録は今なお破られていない。
「まあ、初日は、これでいいか。よし、頑張るぞ!」
 襟を正したビアンカは、ガッツポーズをすると意気揚々と女子用お手洗いから出た。





被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿 (リーガルファンタジーシリーズ)


 魔王を倒し世界を救った勇者が極刑を科しうる謀殺罪で起訴される!
 有力な証人は暗殺され陪審員は、全員元魔王軍のモンスター!
 新米美少女弁護士は無罪を勝ち取ることができるのか?


 十六歳で弁護士になったビアンカ・グリシャムは、初仕事で、魔王ザガリーを倒し、世界を救った勇者ラインハートの弁護を担当することになる。ラインハートが装備していた最強の防具『ホーリークリスタルアーマー』は、希少モンスター『クリスタルクラゲ』を大量虐殺し、その胴体で作られた物。その虐殺行為は法に反し、死刑に相当する罪だとして起訴されてしまったのだ。その訴追は、魔王軍復活を目論む秘密結社ダークリターンがラインハートを合法的に抹殺しようと目論んで起こしたもの。 ラインハートが死刑になれば、旧魔王軍が勢いづくことになる。何としても、無罪を勝ち取らなければならない。
 ビアンカは先輩弁護士のクリスト・ハーバートの助けを得ながら弁護活動を行うが、有利な証拠は集まらない。
世間に広く知られているラインハートの伝説によれば、ホーリークリスタルアーマーはクリスタルクラゲを加工して作ったことになっている。が、調査を進めるとラインハートは、ある洞窟でホーリークリスタルアーマーを手に入れて、甲冑師のトルキンに修理を依頼したに過ぎないと分かる。
 ビアンカらはトルキンから証言を得ようとするが彼は既に何者かによって暗殺されていた。
 裁判は陪審審理により行うことになるが、陪審員の全員が旧魔王軍のモンスターで占められてしまうという有様。
 果たして、ビアンカは、ラインハートの無罪を勝ち取ることができるのか?

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

「大滝七夕って何者?」と興味を持ってくださった方は、先ず、こちらのシリーズをご覧ください。



バイト補助者からの成り上がり 実録行政書士開業十年

 平成十五年の行政書士試験合格後、大学卒業と共に行政書士補助者となるも二か月で失業。
 人生で最もどん底の時期を生き抜き、人脈、資金、営業経験ゼロの状態から弁護士と行政書士の合同事務所を設立し、現在、十周年を過ぎた私の開業初期の実体験を記した手記。

 私の趣味と特技は小説の執筆です。学生時代は、非モテの引き籠り体質で友達が全くいませんでした。
 はっきり言って士業には全く向いていない人間です。
 おまけに、開業した時は失業状態で、資金はゼロ。行政書士会に払う登録手数料や入会金を支払うお金もありませんでした。
 何の計画もなく、見切り発車したにもかかわらず、行政書士として十年以上生き抜き、一千万以上の売上を上げている理由は、私だけの独自の営業手法『チラシ小説』にあります。
 その秘密をほんのちょっと公開しています。
 行政書士の方だけでなく、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士等の他士業でも使える方法です。興味がある方は参考にしてください。

※この小説は行政書士等士業の開業テクニックを披露する事に主眼をおいたものではありません。私のプロフィールを少し詳細に紹介している私小説に過ぎないことをご承知おきください。


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posted by 大滝七夕 at 21:21| 今日の小説
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