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2017年09月25日

農地を長男に相続させるためには? / 行政書士だけでは食えない今の時代を生き抜くためのヒントは孫子の兵法にあり


民法の原則では、相続が発生した場合、配偶者と子供たちは法定相続分に従って、遺産を分割することが建前となっています。

(法定相続分)
第九百条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

尤も、この規定は任意規定ですから、必ず、法定相続分通りに相続しなければならないわけではありません。

例えば、父が亡くなり、母と長男、次男、長女が相続人だったとしましょう。

めぼしい相続財産は、広大な農地のみ。
農地は、長男が継ぐ――長子相続――が、その地域の慣習だったとします。
現在の民法制度の下でも、長男のみが相続することは可能です。

特に、農地の場合は、分割してしまうと狭くなってしまい、効率的な農地経営の観点からも好ましくありません。
もちろん、物理的に分割せず、権利だけ共有という形にすることもできます。共有の場合は、農耕作業には、全く影響しなくても、農地から得られる一人当たりの収入が減ってしまい、農業だけでは、生活が成り立たなくなってしまいます。そうなると、農地を手放してしまうということもありうるでしょう。

やはり、農地に関しては、昔ながらの長子相続の形で、相続するのが望ましいと言えます。

その場合、農地を相続しない次男、長女に対しては一定の配慮が必要になります。

まず、母親の面倒は誰が見るのか?と言う点に関しては、やはり、農地を相続した見返りに、長男が世話するのが望ましいということになるでしょう。

長子相続とすると決めたとしても、次男、長女には、次のように、遺留分があります。

(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

母と長男、次男、長女が相続人となる場合は、次男、長女は相続財産の六分の一×二分の一=十二分の一
つまり、どのような形で相続されるのであれ、全遺産のうち、十二分の一は、次男、長女が相続する権利を主張することができる――遺留分減殺請求することができる――わけです。

以下、具体的な数字で見ていきましょう。この記事を作成している時点で、農地の価格の相場は次の通りです。

10アール=約1反=約300坪あたり
純農業地域 田127.0万円、畑92.4万円
都市的農業地域 田358.9万円、畑346.7万円

ところで、農地は必要最低限の広さが農地法で定められています。北海道では二ヘクタール、都府県では五十アールが最低限の面積です。

一ヘクタールとは、100アール=約10反=約3000坪です。

北海道では、二ヘクタールが最低面積。ということは、200アール=約20反=約6000坪もの土地がなければ、農地として認められないということなんですね。

※農地法
(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
第三条  農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。(略)
2  前項の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合には、することができない。(略)
五  第一号に掲げる権利を取得しようとする者又はその世帯員等がその取得後において耕作の事業に供すべき農地の面積の合計及びその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき採草放牧地の面積の合計が、いずれも、北海道では二ヘクタール、都府県では五十アール(農業委員会が、農林水産省令で定める基準に従い、市町村の区域の全部又は一部についてこれらの面積の範囲内で別段の面積を定め、農林水産省令で定めるところにより、これを公示したときは、その面積)に達しない場合 (略)

例えば、都心部に近い都市的農業地域で、50アールの田を長男が相続したとしましょう。

価格はおおむね10アールあたり358.9万円となっていますから、1794.5万円――四捨五入して1800万円とします――相当の価値があることになります。

これを長男のみが相続。それに対して、次男、長女が遺留分を主張した場合は、

約1800万円×十二分の一=約150万円

この金額だけ、遺留分減殺請求することができるわけです。

もしも、次男、長女が弁護士を立てるなどして、権利主張した場合は、長男は、約150万円の金額をどうにかして捻出しなければならないことになります。

一般的には、価額による弁償ということになりますが、現金がなければ、農地を売るしかないということになります。

しかし、農地の売却については、農地法によって、様々な規制があり、自由に売却することはできません。50アールしかない場合は、先の農地法第三条の規定にあるとおり、下限面積ぎりぎりですから、切り売りすることなど出来ず、丸ごと手放すしかなくなるわけです。

そうなってしまうと、先祖代々受け継がれてきた農地を長男の代でダメにしてしまうことになりかねません。

そこで、次男、長女に対しても一定の遺産を分けてやることが穏便な相続のためには必要でしょう。

最低でも遺留分相当額の遺産を相続させるべきです。

例えば、銀行預金や株式などの不動産以外の資産を相続させることを検討すべきです。

もしも、十分な銀行預金が残っていない。残っていたとしても、そのお金は、母の生活のために必要なお金だということになると、次男、長女に対して、何等の遺産を残せないことになるかもしれません。

その場合、次男、長女を納得させる方法として、現物支給するという方法も考えられます。

例えば、田圃で取れる米を次男、長女に対して、毎月10キロずつ、送ってやるという方法です。仮に10キロ3000円と仮定すると、1年間あたり、36000円相当の贈与をしているも同然です。

それを約42年間続ければ、遺留分相当額の約150万円に達することになります。

その旨の約束をすることによって、次男、長女を納得させるというのも一つの方法と言えます。

参考条文
民法
(遺留分の算定)
第千二十九条  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第千三十条  贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
(遺贈又は贈与の減殺請求)
第千三十一条  遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
(遺留分権利者に対する価額による弁償)
第千四十一条  受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2  前項の規定は、前条第一項ただし書の場合について準用する。


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posted by 大滝七夕 at 20:31| 実務のヒント
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